寝返りの勧め

仕事がきつくて疲れて眠った時、深酒で眠った時など、夜間に十分な寝返りが打てなくて、朝起きた時に寝違えや腰痛を経験したことがある人は少なくないと思います。寝返りは、長時間同じ姿勢をとる事を防ぐために大切な動作です。寝返りについて述べたいと思います。

寝返りは、生後3か月の赤ちゃんから始まりますが、その生物学的意義については不明な点が多いです。寝返りをうっている人は、しっかり睡眠ができていないかという考えがちですが、寝返りは長時間の良い睡眠を行うためのものです。

人の睡眠は、脳波の特徴において、レム睡眠とノンレム睡眠から成り立ち、レム睡眠は身体の眠りで、睡眠全体の4分の1程度、ノンレム睡眠が脳の眠りです。レム睡眠は、身体は休んでいても、脳や交感神経が働き、体の血流が良くなります。そんため、体が暖かくなります。一方で、ノンレム睡眠は大脳皮質を十分休ませ、副交感神経が働き、脳をクールダウン、リラックスさせる睡眠で、高等動物では、ノンレム睡眠の時間が長いという特徴があります。寝返りは、ノンレム睡眠中の睡眠段階の移行時または、レム・ノンレムの移行時に発生すると考えられています。
寝返りは、平均睡眠時間6.2±1.0 時間で総寝返り回数は1 日当たり24±9.8(6―38)回であったと報告され(前田ら、日本理学療法学術大会,2015)、およそ、1時間あたりに4回行うことが多く、また個人差も多い。病院では、寝返りができない方に対しては、褥瘡予防のために2時間毎に寝返りを行っています。

精神の緊張が続き、寝返りの少ないノンレム睡眠が不十分であると、いくら寝てもリラックスできず疲れが残り、体もむくんでこわばるという悪循環が続きます。正しい寝返りをうって、良い眠りにつくことが大切です。

寝返りの意義としては、

1)体液の循環を良くすること、があげられます。人の体は60%が水分でできているため、同じ姿勢を続けると下になっている部分にむくみがたまり特定の部分に循環障害と負担がかかります。そのため、長時間同じ部分があたると褥瘡ができてしまうこともあります。人は同じ姿勢でいると、特定の部分だけに負担がかかり、その部分に疲れがたまります。寝ているときは、その体重を支えている部分が、圧迫され血液の流れが悪くなってしまいます。

2)同じ姿勢をしていると、寝ながらでも体に不快を感じて寝返りをうちますが、疲れや酔いで、感覚が鈍ると不快感に気づかず同じ姿勢、場合によってはゆがんだ脊椎での不良姿勢の継続が続いて、頚椎の捻挫(寝違え)や腰痛が発生します。

3)慢性腰痛や肩こりの方が、痛みのため十分な寝返りができずに、朝起きた時に痛みを感じる場合も多くあります。

4)他にも寝返りは、上を向いて寝ていて気道が閉塞される無呼吸や、布団と皮膚があたって蒸れてくることを予防する手助けにつながっています。ずっと同じ姿勢で寝ていると、布団に接している部分が蒸れてきていまい、不潔となります。寝返りをすることで風通しもよくするために蒸れた状態を予防することができます。

 

寝返りをうつための工夫

寝返りが大事なのがわかっていても、できていなかったら意味がありません。
それも寝ているときに自分が寝返りをうっているかを知ることはなかなか簡単なことではありません。なので、できるだけ寝返りの邪魔をしないような工夫をすることが重要です。
1)寝返り準備をすること

練る前に体がこわばっていると、自由な寝返りがうてません。肩と股関節をしっかりストレッチをして、寝る前に肩と骨盤を合わせて、体が一体となって寝返りがうてるようゴロゴロしてから睡眠にはいると良いと思います。

 

2)適切な枕、布団を使用すること

頭や体が枕や布団にしずみこんでしまうと、寝返りがうちづらくなります。枕は横を向かすく、上を向いて寝る時は、頭の位置(耳の孔の高さ)が、少し肩より高いくらいが良いとされています。また十分な睡眠をとることで肩こりの解決にもなります(山田朱織、整形・災害外科, 2015)

X線で、枕を使用しなかった時、適切な枕を使用した時の状態を示します(下図)。枕を使用しないと、頚椎が反り返ってしまうため、頚椎の関節に負担がかかり、高すぎる枕では、頚椎が逆向きに反って、首の後ろの筋肉に緊張が発生します。また、高い枕は、顎が近づくために気道がせまくなるので注意が必要です。

3)パジャマや掛布団の注意

厚い生地のもの、サイズに余裕がないパジャマや、分厚い布団を首から頭までかぶることは身体が動きづらくなるので注意が必要です。

 

 

参考:

森本昌宏 肩こりの臨床 2013年 克誠堂出版

遠藤健司 本当は怖い肩こり 2016年 祥伝社

遠藤健司 ターザン 711号,2017年 マガジンハウス社